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今回は2020年8月17日発行分の日経ビジネス『コロナに勝つ工場』を読んだ感想をまとめます。
2011年の東日本大震災でBCP(事業継続計画)の必要性に全企業が気づき、対策を打ってきました。しかし今回のコロナエフェクトで機能した工場と、不足な点が見つかった企業に分けられます。
どんな工場が多くの分断を伴うコロナに対処できたのでしょうか。
ぜひご覧ください!
目次
PART1:コロナエフェクトアンケート結果
日経ビジネスが7/14~7/29にかけて、東証上場企業の時価総額300位以内の会社にアンケートを送付し、回答がきた116社の内容をまとめた結果が上記のグラフになります。
ポイントは下記3点です。
- コロナ影響による生産量は前年同月で80%以上の場合が最も多いが、20%未満になる会社も10社存在する
- サプライチェーンの見直しは約7割の会社が検討しており、対策として複社調達、複数拠点、サプライチェーンの情報管理の精緻化が多く考えられている
- 工場の国内回帰を検討している会社は約10%
また、新型コロナが生産活動に支障をもたらさなかったと19社が回答しましたが、そのうちの13社はサプライチェーンの見直しを行っていると回答がありました。コロナの第二波、第三波に備えるため直接影響がなかった企業でも事業継続計画(BCP)の策定、見直しの動きがかかっています。
コロナショックにより、企業はどのような変化をするのでしょうか。次章以降で見てみましょう。
PATR2:連鎖したコロナ危機
今回のコロナ危機は中国ロックダウンによるサプライチェーンの危機と、欧州ロックダウンによる需要の危機の2つの危機が連鎖的に襲ってきました。コスト競争力を高めるために、世界中に張り巡らせたサプライチェーンを見直す必要が出てきそうです。
マツダの対応
自動車メーカーのマツダは1月下旬の中国のロックダウンに際し、下記の対応を行いました。
- 供給が途切れる恐れのある「レッドリスト」作成
- 現地の在庫状況確認
- 代替調達(サプライヤへ別工場での生産依頼、マツダの工場内での部品供給)
「レッドリスト」の作成においては、東日本大震災の教訓を活かし、Tier2以降も把握できるシステムを使い、洗い出すことができました。しかし「レッドリスト」に挙げられた部品の現品確認が今回のロックダウンではできない状況となりました。結局ロックダウンが解除される3月になってやっと確認ができた状態です。
現物確認ができない状況での販売機会損失をさけるため、サプライヤの別工場での生産を依頼したり、マツダのメキシコ工場の部品を日本に送り、生産を継続する方法でコロナにおける供給面の課題を乗り越えました。
しかし、マツダは生産をつないだ後に大規模減産の方針を打ち出さざるを得ませんでした。コロナが世界中に広がり、各国でディーラーの営業ができなくなったことで、需要面での課題が第二波としてやってきました。マツダの世界生産台数は4月が前年同月比70%減、5月は64%減と大幅に減少。自動車メーカーは多数のサプライヤーをかかえているため、それだけ社会への影響は大きいものとなっています。
マツダの購買本部はお取引先700社の手元流動性を調べました。お取引先の資金繰りを調べるのはリーマンショック以来で、当時はTier1のみだった対象をTier2にまで広げました。資金繰りが厳しいお取引先に対しては、支払い条件の緩和や融資先の銀行開拓に協力していました。また普段は提示しない自動車の製品在庫状況をお取引先にシェアすることで、お取引先もいつまで資金繰りをすればよいかわかるなど、柔軟な対応でコロナショックを乗り切りました。
TOTOの対応
今回のコロナショックにおいては、サプライチェーンが長くない、部品点数の少ない産業においても影響を残しました。その一つが大手衛生陶器メーカーのTOTOです。
2月、中国から輸入している温水便座用の電子部品の調達ができなくなり、住宅用のトイレが納入できなくなりました。その結果住宅会社では住宅販売の明け渡しに影響がでました。タイの洪水や東日本大震災の影響を受け、BCPを策定する企業は増えてきましたが、その範囲が国内のみだったり、アジアに限られている場合も多くありました。今回のTOTOの混乱は自社のサプライチェーンが海外でどのように根を張っていくのか、深く把握すべきという教訓を残しました。
またTOTOだけではなく、ニンテンドーのゲーム機「ニンテンドースイッチ」も商品供給がひっ迫する事態となっています。
ロックダウンによる経済影響
上の図は世界で下記の移動が制限された場合のサプライチェーンへの影響を表しています。
- 人の移動の分断
- 物流の分断
- 生産の分断
今回のコロナにおいては、工場の稼働は認められても働き手の人が動けなかったり、輸送便が減らされたりと、多大な影響を受けました。
盤石なサプライチェーンを築いていると思われたアップルの「iPhone」においても、中国で生産委託先の組み立て工場が停止し、一時品薄になりました。またパソコン大手として安定した水辺分業のモデルを築いてきた米デルも、演算処理用の半導体の調達に苦戦し、結果的にサプライチェーンにおける中国の存在の大きさが浮き彫りとなる結果でした。
大和総研の橋本政彦シニアエコノミストによる分析では、同国の製造業の生産が10%変化すると需要、供給いずれの経由でも世界全体に5兆ドル(約530兆円)強もの影響があります。その影響は第二位の影響を与えるEUの2倍強です。
逆にEUの生産が10%変化すると中国への影響は6000億ドル強となり、これも十分大きなインパクトになります。00年代以降のグローバル化の中で作り上げたサプライチェーンにより、国ごとの危機がより連鎖しやすくなっています。その連鎖を止める施策として何があるか、次章で見てみましょう。
PART3:国内回帰の行く末
コロナウイルスに効くとされるアビガンの製造。それを作るとしても国内で完結できるようなサプライチェーンを準備しなくてはなりません。マスクなどの医療品についても自国を守るための安全保障品としての機能が浮き彫りになった今、有事の際に国内に届けられる体制作りのための動きと課題を見てみましょう。
アビガンの製造
日本という国として欠けていたものと言えるワクチンのサプライチェーン。富士フィルムホールディングスの抗インフルエンザ薬のアビガンも政府に依頼をうけて国内製造を行うことになりました。
製造元となる富士フィルム富山化学は国内での製造においてサプライチェーン上2つの課題がありました。①原材料の安定調達と②国内での生産能力の確保です。
原材料は中国企業から購入していたマロン酸ジエチル。国内ではデンカが唯一製造していました。しかしデンカは海外との価格競争で17年4月以来生産を中止していました。そこで富士フィルムと経済産業省はデンカに生産再開を要請するとともに、国内回帰の補助金を活用して設備を改修することで原材料供給の課題を解決しました。
国内での生産能力の確保については、製薬や化学の10社を超す企業を巻き込んで、工程を分担し合う流れをこしらえました。しかし流れを作ってからも調整は続きます。「どの工場でいつ、どれだけ生産し、どこに届けるのか」といったサプライチェーンを細かくチェックする日々。さらに医薬品の製造に不可欠な生産設備の承認を得る手続きも進めました。国内でのサプライチェーンを作るためには、並外れた努力が必要になります。
また経済合理性の観点から国内で作ることはできない場合がほとんどのため、今後は政府が戦略的に国内製造を行う分野やものについて定義しなくてはいけないでしょう。
課題は高い人件費
日本での製造回帰はPART1のアンケート結果でも2.9%しかいませんでした。理由は日本における人件費の高さです。パイオニアは日本仕向けのみの生産品をタイだけではなく、埼玉にも立ち上げること方針です。またオーダースーツのツキムラを運営するラガゾットは日本での生産割合を3割から5割に引き上げる予定です。
顧客へ迷惑をかけることだけは避けたいという思いが強い、日本の企業。そのため原価が上がった分、価格へ反映することは困難です。コスト削減の方法として、1つは一度当たりに購入する原料の単位を多くすること、2つ目は発送費の削減。コストアップを抑える手立てが少ない中、国内回帰を目指す企業は多くなりません。
政府は日本企業の国内生産を後押ししようと、政府が20年度補正予算に2200億円を計上し、サプライチェーン再構築に関する補助金を用意しました。企業は工場の新設や生産設備を導入する際の投資で補助金を利用でき、基本的な補助率は大企業なら2分の1以下、中小企業であれば3分の2以下という内容になっています。
しかしその制度が執行されている状況は、予算に対し大きくありません。上海の4~5倍、ベトナムの10倍する人件費や大震災以来2割ほど値段が上がっている電気代など、コスト面で日本で生産を行う合理性がないからです。では最後にコロナエフェクトに対するほかの企業の取り組みを、次章にて紹介しましょう。
PART4:リスク対応としてのネットワーク化
コロナエフェクトに対するリスクへの対策として各企業例を参考に下記4点説明します。
- 100%地産地消を目指す
- 情報システムで部品を徹底的に見える化
- 地域ごとの短いサプライチェーンを原則に
- 徹底した自動化を追及
ダイキン工業の場合
市場に近いところで生産する「市場最寄化生産」を基本方針に掲げるダイキン。世界を日本・中国・欧州・米州・アジアの5極に分けて調達、生産する体制を20~30年かけて築いてきました。そのダイキンにおいても価格や品質の観点を重視する一部の部品は、特定の地域から集中購買してきました。空調機の集中購買の部品点数は全体の約3割。しかしその3割のうち半分が中国からの調達品だったため、コロナによる影響をうける可能性がありました。
そのリスクを減らすため、現在の7割を100%に近づけることです。そのために十河政則社長は「年単位の時間がかかるかもしれないが、地域のサプライヤーを育てていく」話します。まずは集中購買先の最安値をベンチマークに地元企業に生産性の改善方法などを伝え、競争を行わせる。それでも育たない場合は、集中購買先に拠点への工場進出も打診しながら100%を目指すようです。
さらに取引先の見える化を促進するシステム構築にも乗り出します。サプライヤーの所在国のみならず、在庫状況も把握できるシステムを作成します。2次、3次のサプライヤーの在庫状況も正確に把握することで、より精緻な欠品情報を得ることができ、効率的な対策を打つことが可能です。
トヨタ自動車の場合
トヨタ自動車は10次サプライヤーまで分かるサプライチェーン情報システム「レスキュー」が機能したことにより、国内工場停止期間を最小限に抑えることができました。中には部品の表面処理の仕方、塗料、添加剤まで登録してあります。
供給リスクの違いによって品目を8段階で分類しており、リスクが高い品目についてはサプライヤーと一緒にその企業の他の工場での生産を検討し、難しければ他の仕入れ先を探してきました。
トヨタのBCPへの取り組みは東日本大震災を機に加速しました。2011年には人海戦術で情報をとりにいきましたが、被災の影響を把握することに約3週間かかりました。13年に「レスキュー」というシステムを立ち上げ、今回のコロナではほとんど減産することなしに影響をとどめることができました。
そんなトヨタにとって、コロナ禍でみえてきたサプライチェーンの課題は、代替できない部品の存在が依然として多かったことです。欠品ゼロにするための手っ取り早い方法は在庫を持つことです。しかしJITなどに代表するトヨタ生産方式の考えとは合致しません。まだトヨタ自体方法を模索中のようですが、サプライヤーと一体となって知恵を出していくようです。
NTNの場合
自動車メーカーなどに部品を納めるベアリング大手のNTNは、「短いサプライチェーン」をキーワードに掲げます。
コモディティ化が進みやすいベアリングは価格競争力確保のため、中国や東南アジアでまとめて部品を調達していました。しかし、2014年にアメリカ西海岸の港湾ストライキで部品供給が途切れた経験から、現地調達を志向するようになりました。さらに近年米中貿易戦争やNAFTAが部品調達率75%以上に引き上げるよう要求するなどもあり、現地化を進めています。
そして短いサプライチェーンの利点は、需要の変動における調整力が上がることもポイントです。コロナにより需要や供給が大きく変動することが予想される中で大きなポイントになっています。またコストや品質における現地化できない部品については、バックアップの工場やサプライヤーを準備しておくことを条件としています。
カシオ計算機の場合
カシオ計算機執行役員の篠田豊可生産本部長は、調達と生産の体制を作り直すとし、6月に数十名の専任組織を立ち上げました。今回のコロナにより需要の減少にタイムリーに供給を変化させることができず、在庫が増えたことが問題でした。意思決定までの時間、生産リードタイム、調達リードタイムの短縮などを含む「サプライチェーンの高速化」によって、課題を解決することを志向しています。
そのためになるべく人手を介さず、データに基づいて即座位に生産や調達の計画を立てる仕組みを作ること、そして生産の徹底的な自動化を推進します。現在ムーブメントの機構においては高い自動化率を誇っていますが、製品組み立ても自動化を行います。
サプライチェーンのネットワーク化へ
国内でのみのサプライチェーンからグローバルに広がり、どんどんとサプライチェーンが複雑化してきました。それにより取引先や拠点の数が飛躍的に増えたことで、状況把握が困難になり、地政学的なリスクが増えていきました。
今後企業の競争力の一つとして、危機に柔軟に対応できるサプライチェーンがますます重要になってきます。米中の貿易戦争やほかのさまざまなカントリーリスク、サイバーリスクなど、有事の際にモノが途絶えないつながりの作り方として、複数化からネットワーク化が志向されていくでしょう。
地域ごとに独立した複数のサプライチェーンを構築して起き、サプライヤーの稼働が止まったらすぐに代替サプライヤーからの調達に切り替える。自社の工場が止まったら、別の拠点に迅速に生産を移管する。さらにそうした意思決定を即座にできるように、チェーンの状況を常に把握する仕組みも持っておく。
サプライチェーンを進化させる時代が目の前に来ています。
感想
自分の業務に非常に関わりの深い内容で、大変参考になりました。
他社事例が知る機会は会社にいるだけでは中々入ってこないため、自社のレベルを図る意味でも有意義なものになりました。中でもサプライヤーデータの収集においては今後ますます重要性を増すと思います。とりわけ日本の製造業は新しく出てきた会社が少ない分、まだまだマニュアル作業が多いと感じます。そのため、システムを有効に利用し、データを駆使した業務が定着すれば更なる飛躍ができるのではないかと思いました。
逆に外国のメーカーなどは日本企業に比べ多様性が多く、新しい組織へ変革することが得意なのではないかと感じます。このコロナの追い風を利用し変化ができない場合は、日本企業が世界に誇るメーカーとして生き残ることは困難になるでしょう。自分の中の一つの使命感として、システム化の考えは常に持ち続け、なんらかのアウトプットに繋げたいと思います。
またビジネスモデルを変更する企業は多いですが、モノの作り方やオペレーションを変える企業は少ないのではないかと思いました。それはビジネスモデルの変革は商売が成り立たないというわかりやすい課題があり、それによる影響もイメージがしやすいです。しかしオペレーションの変更については、その効果を測るものさしが経営者の頭にない場合が多く、そのものさしを作る段階から話をしなくてはいけません。そのため、実際に問題が起こったコロナショックは好機とも言えます。この好機をうまく使って、まずは私個人としてどういう姿が理想像なのかを描きたいと思います。
尚、本日経ビジネスとは関係ないのですが、私の近況報告です。笑
ブログの更新の間が空き、失礼しました。8月頭から田中角栄および戦後史にかかわる本にハマってしまい、とにかく本を読みたい欲求に駆られ、ブログが更新できておりませんでした💦これからまた更新していきますので、今後ともよろしくお願いいたします!
最後に:今週の本紹介
日経ビジネスで紹介されている話題の本を私の備忘録として載せます。
気になる本があれば、感想をブログにアップする予定です!
皆さんも気になる本がありましたら、ぜひコメント欄で教えてください。
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最後までご覧いただき、ありがとうございました。
また次回のブログでお会いしましょう。