27歳からのどっこいしょブログ

会社員。ブログ歴3年目。現在30歳。国際結婚。長野県。読書感想や思ったことを記録していきます。

【読書感想】日経ビジネス『さまよう工場』を読んで

日経ビジネス表紙「さまよう工場」

2020/2/3発行分 日経ビジネス表紙

当記事にお越しいただき、ありがとうございます。

今回は2020年2月3日発行分の日経ビジネス『さまよう工場-米中分断時代を生きる-』の感想をまとめます。

当記事を読むことで下記3点が分かります。

  1. 米中貿易戦争による脱中国の状況
  2. 移管先としてのベトナムの状況
  3. 貿易戦争に対する企業の対応

ぜひご覧ください!

 

目次

 

Prologue:華為のスマホに見る米中貿易戦争

2019年5月、アメリカが安全保障上の懸念がある企業への米国製品の出荷に制約を設ける「エンティティーリスト」へ華為を掲載しました。それは中国を弱めることが目的でした。

しかし最新の華為最上位モデルのスマホを分解すると、キーパーツやテープ類はすべて内製かアメリカ以外の企業からの調達となっています。使われている米国部品はクアルコムのFEM、シーラス・ロジックのオーディオアンプ、テキサス・インスツルメンツのアナログスイッチのみ。

米中貿易戦争により中国とアメリカの亀裂が深まります。そしてその影響を受け、サプライチェーンについても大きな変更が入っています。

Part1:薄暮の「世界の工場」

米中貿易摩擦の影響によって、中国に工場のあるメーカーは海外拠点への移管に急いでいます。そしてそれは外資系企業だけでなく、中国国内のメーカーにおいても、「新チャイナ・プラスワン」として動きがかかっています。

今まではゴムやタイヤはASEANから原材料を購入し、中国で加工、そしてアメリカへ輸出を行っていました。しかし現在はASEANで加工まで行い、アメリカへ輸出する企業が増加しています。従来まで築き上げたサプライチェーンの再編が行われており、それによって「世界の工場」としての中国の地位は下がっていくと思われます。

米中貿易戦争の一連の流れ

米中貿易戦争 流れ

新チャイナ・プラスワン

サプライチェーンの変革としての脱中国化は00年代半ばにおいてもありました。一極集中のリスクを避けるため、東南アジアに拠点を設けるチャイナ・プラスワンを進めました。

しかし、今回の再編で異なることは中国企業の東南アジアへの拠点移管「新チャイナ・プラスワン」がおこなわれていることです。19年度における中国メーカーのASEANへの投資額は増加傾向にあります。

中国のタイヤメーカー浦林成山は3億ドルを投じ、国外初の工場をタイに建設しています。ほかにもタイヤメーカーの江蘇通用はタイ、賽輪集団はベトナムへの投資を行いました。また関税の影響を受けた家具メーカーでも同様の動きとなっており、恒林椅業など13社がベトナムに拠点を移す計画です。

インターネットやコンテナ輸送などのインフラが整ったことにより、サプライチェーンのグローバル化が進み、先進国の企業は安価な労働力を求め、海外工場の建設を行いました。そのころ豊富な労働力と国を挙げての外国企業の誘致を行った中国が現在世界第二位を誇るGDPの経済大国になりました。その結果米国製造業の空洞化を招き、今回の貿易戦争へと発展しました。

米中とASEANの取引

米中とASEANの取引

貿易戦争の解決は遠い

20年1月に合意はしたものの、米中の貿易戦争が解決したわけではありません。

この貿易戦争の裏ではアメリカと中国の覇権争いの意味も含んでいます。そのためこの戦いは長期化するとみるのが自然でしょう。そのなかで日本企業は中国に依存したサプライチェーンの再構築および、中国から部品を輸入するような米国の工場を撤廃など対策を行う必要があります。

Part2:候補地としてのベトナム

脱チャイナの第一候補として名高いベトナム。対米輸出額についても19年1~11月の値は前年度比+30%以上となっています。そのベトナムの状況と今後の見立てについてみてみましょう。

ベトナムが選ばれる理由

日系企業進出国 内容まとめ

日系企業進出国 内容まとめ

ベトナムの魅力の1つは人件費の安さです。ジェトロによると工場に勤める一般従業員の平均賃金は月額220ドルと中国の4割の水準で、タイやインドネシアよりも低くなっています。なお賃金のみではミャンマーやカンボジアのほうが低く、人口で言えばフィリピンやインドネシアのほうが多い状況です。それでもベトナムが選ばれる理由は、欠点の少なさにあります。政治面でも比較的安定していること、輸出面で地理的に優位な場所にあること、多くの国とFTAを結んでおり、関税面でも優遇を受けやすいことなど、バランスの良さがベトナムの魅力になっています。

ベトナムの特徴

ベトナムの特徴

ベトナムの課題

ベトナムが今後中国のように発展していくためには2点課題があります。

1つ目がサプライチェーンの重なりです。現在ベトナムの原材料・部品の現地調達率は36.3%にとどまっており、中国(66.3%)、タイ(57.2%)を下回っています。中国が世界の工場として呼ばれていた時代は、租税回避地として香港がありました。香港に法人を設立し、中国の工場で委託生産をすれば、関税をはじめ様々な税金の控除を受けられるだけでなく、固定資産を抱えるリスクも回避できました。それにより、中国でのサプライチェーンが発達しましたが、ベトナムにはこのような国内で調達することを応援する基盤がありません。

2つ目は高付加価値の工場においては、依然中国工場のままとなっています。自動化の進展により中国の製造業が高度化していること、さらに中国企業の生産する生地や素材の競争力が高く、それをベトナムで立ち上げることは難しい状況です。この高付加価値が可能なほど品質面が向上できていないことが課題です。もちろん貿易戦争が長期化すれば、高付加価値品の移管も検討される可能性はありますが、その年月を費やしてしまった場合ベトナムの人件費の上昇(過去10年で2.5倍上昇)や優秀な人材確保の競争激化などの課題に直面することになるでしょう。

Part3:勝つ法則は「分散」

ベトナムにおいてもほかの国においても、貿易赤字になったら米国の矛先がASEANに行くこともあります。そのため場当たり的な対策ではなく、企業としてリスクマネジメントを行っている具体例をご紹介します。

リコー

リコー

第4弾の関税が実行された2019年9月。複合機も対象となる実施内容でしたが、リコーの生産本部長を務める西宮一雄常務執行役員は落ち着いていました。理由は7月時点でタイの工場に生産を移管済だったからです。

リコーがリスクマネジメントに舵を切ったのは、2011年のタイの洪水がきっかけでした。タイの洪水の際に、シングルソースだった電子部品のタイ工場の復旧せず、プリンターの生産に影響がでました。そのことから、完成品にしろ部品にしろ以下所からしか供給できないことのリスクを痛感しました。そしてタイと中国での2拠点生産を戦略的に行っています。

2か所で同じ製品を立ち上げることは部品認定やライン立ち上げなど倍の手間がかかります。しかし、低速帯から高速帯の仕様をできる限り共通化し、設計や技術の手間を省きました。また共通化することでスケールメリットを生かしコストを抑えることもできます。こういった備えによって第4弾の関税に合わせてタイ工場での生産に柔軟に切り替えることができました。

ダイキン工業

ダイキン工業の取り組み

ダイキン工業 取り組み

空調世界最大手のダイキン工業も、生産や調達の分散によるリスク低減に積極的に取り組んでいます。ダイキン工業の生産拠点は世界で約90か所まで増えており、それらの工場を使って市場に近いところで生産する「市場最寄化生産」を進めています。

空調はその土地の気候や生活環境によってカスタマイズが必要です。しかしそのカスタマイズした製品ごとに開発したのではロスが大きいです。そのためダイキン工業では日本で基本モデルを開発、それを最寄りの工場や市場ごとにカスタマイズを行い、販売しています。

リコーが複合機で上位から下位の機種にまたがる形でプラットフォームを統一したのに対し、ダイキンは機種のクラスごとにプラットフォームを設計し、地域にまたがる形で統一しています。

サプライチェーンの構築に終わりはありません。生産や調達の安定を優先させるために、常に変わり続ける覚悟が企業に求められています。

私の感想

今まで米中貿易戦争の広範囲な影響について知らなかったので、学びの多い記事でした。

私もメーカー勤務のため、ご多分に漏れず米中貿易戦争の影響を受けました。そのためPart3の生産地移管や複数拠点での調達の構築の重要性は理解していました。しかしPart1や2の内容については勉強不足だったので、今回知ることができてよかったです。

中国は今まで通りの世界の工場としての地位は崩れていくかもしれません。しかしながらAIや5Gなどを駆使した高付加価値品の製造や企業はこれからも勃興していくと思います。そのため世界の工場の終了については、正しい成長痛なのかなと思いました。

また各国の平均賃金やGDP、人口などのデータがまとめられていたのは非常に有意義でした。平均賃金はジェトロで調べることはできますが、ほかのASEANの国のところまで整理して理解できていませんでした。今回本記事を読むことでベトナムが人気な理由やほかのASEANの地域についても知ることができたので良かったです。ベトナムに外国資本(主に中国)が集まっているとのことですので、ASEAN株もチェックしたいと思いました。

世界の工場の大本命と言われているのはインドではないかと思っていました。インドの経済についてまだまだ不勉強だったため、今度本を借りて学習したいです。

サプライチェーンの内容については、ダイキンの「市場最寄化」生産の発想は面白かったです。製品の特性によって完成品を近くで作るべきか、まとめて一か所で作るべきかは変わると思います。しかし究極的には使う人の近くで作り、その材料も近くでそろうことがベストだと思います。(輸送コストやリードタイムの観点からそう考えました。)3Dプリンタが物流を変えるということを聞いたことがありますが、最新の技術を使って、必要な時に、必要なものを、安い価格で届けられる仕組みを仕事でも追及していきたいです。

最後に:今週の本紹介

日経ビジネスで紹介されている話題の本を私の備忘録として載せます。

気になる本があれば、感想をブログにアップする予定です!

皆さんも気になる本がありましたら、ぜひコメント欄で教えてください。

  • 『高倉健ラストインタヴューズ』
  • 『「高倉健」という生き方』
  • 『高倉健 七つの顔を隠し続けた男』

最後までお読みいただき、ありがとうございました。