27歳のどっこいしょブログ

会社員。27歳。国際結婚。長野県。読書感想や思ったことを記録していきます。

【読書感想】『虐殺器官』を読んで

伊藤計劃(けいかく)さん著『虐殺器官』の感想をまとめます。ネタバレを含みますのでご注意ください。

 

■要旨:9.11以降の未来では、個人のデータを徹底的に管理することにより、テロのリスクを減らそうとしていたが、一方で途上国では内乱や暴動が勃発していた。米軍の暗殺部隊に所属するシェパード大尉は途上国の内乱の首謀者の暗殺を請け負っていたが、ある任務でアメリカ人のジョン・ポールの暗殺を言い渡される。ジョン・ポールは言葉を引き金に途上国に内乱をもたらしていたのだが、それが先進諸国へ危険を向かわせない彼なりの方法であった。死について、平和について考えるきっかけを与えてくれる良書である。

 

■感想:

主人公がアメリカ人ということもあり、設定を噛み砕くことに時間がかかりました。一貫したテーマがある作品というよりも、「死」や「平和」についてやんわりとひとつなぎになっている印象を受けました。途中の部分は遠回りな部分もあったかなと思いますが、最後の70~80ページほどは最後の種明かしのため、引き込まれていきました。

特筆すべきは設定の面白さです。人々を虐殺へと駆り立てる言葉、すなわち「虐殺器官」という設定、そしてそれは過去の人間の種の保存に有利な進化の産物であること、ジョン・ポール氏が各地で虐殺を引き起こした彼なりの正義などリアリティや合理性が十分ある内容となっています。ほかにも個人がデータ管理され、行動のトレーサビリティがとれていること、戦争に行っても心を壊さないように脳にマスキング処理を行うこと、母を延命させずに命を絶たせた葛藤や、多数の人々の命を奪い見過ごしてきた苦悩を抱える主人公の思考は、凝った設定のなかでも矛盾せずに存在しています。

もう一つ魅力に感じたことは、作者の伊藤計劃さんです。34歳という若さで病気で亡くなってしまったのですが、経歴がまたドラマチックです。webの仕事をやりながら物書きを行い、最初に書いた『虐殺器官』でベストSF2007を受賞しました。またこの物語も10日間で書き上げたということですさまじい集中力だなと感じました。また、本作品は映画化もされているようなので、ぜひ本を読んだ後、イメージを補完するために見てもいいかなと思います。

先進国の平和のために、途上国で内乱を引き起こし、それらの国の負のエネルギー(貧富の格差や不平等など)が先進国に向かないようにするという発想、あくまでも言葉によって無意識的に虐殺を引き起こすという設定は脱帽です。

 

発想のトレーニングとして、非常に読み応えのあるおすすめの本です。

皆さんもぜひ本書の思想の合理性を味わってみてください。