今回は2020年4月27日発行分の日経ビジネス『雇用クライシス-コロナエフェクトに備えよ-』を読んだ感想をまとめます。
コロナウイルスによる影響で雇用にも大きな影響が出てきています。その影響のインパクトと各企業の対応策とは?
ぜひご覧ください!
目次
PART1:雇用の「氷河期」が迫る
新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、現在外出の自粛が求められています。そして経済活動も縮小され、現在の雇用が脅かされる事態になっています。
国際通貨基金(IMF)はロックダウンなどの世界的な移動制限の影響により、2020年の世界の経済成長率をマイナス3%と予測しています。また国際労働機関(ILO)は世界の労働人口の約38%が解雇や賃金カットなどの雇用リスクに直面していると推定しています。
日本においてもIMFは20年の経済成長率予想はマイナス4.2%、リーマンショック翌年(2009年)のマイナス5.4%に近い数値となりそうです。失業率についても4%程度まで上がるとの予測もあり、日本の雇用において危機が迫っています。
実際に日産自動車九州の工場において、期間工の募集説明会は開かれなくなっています。その周辺の下請けメーカーもハローワークに提出した求人募集を取り下げる動きが出ています。実際に全国のユニオンに対し派遣社員から「休むよう言われたが、休みの時期の給与補償について説明がなく、不安だ」という声が多く寄せられています。
今回のコロナの影響はホテルやレストランなどのサービス業から影響を受けました。都内でワインレストランを展開する事業者は1店舗を残して閉店・休業。社員やアルバイト約50人に、4月分の給料が払えないためやめてくれと頭を下げたといいます。
内定取り消しについても顕在化しています。3月に転職活動をしていた男性は、内定を受けていた先方から「採用そのものを辞める」と連絡がありました。また最終面談やほかの採用活動においても中止か延期の状態です。ほかにも内定取り消しのあおりを受けているのが、不動産業界です。もともと転職や移動前提で抑えられていた賃貸契約の1割以上でキャンセルが発生しています。
また人手不足の担い手として増えていた65歳以上の高齢者の雇用においてもシュリンクしていく可能性が高いです。高齢者の働き先が営業自粛や閉鎖などで少なくなっていく一方、「新型コロナウイルスの感染が怖いから働きに出たくない」という声も上がっています。
新型コロナウイルスがリーマンショックや東日本大震災の時と異なる点は、終わりが予測しづらい点です。いつまで耐えればいいのかわからない不安と恐怖が日本企業を襲っています。景気回復した時の戦力は蓄えつつ、現在の食い扶持は極限まで絞りたい。そんなチキンレースが今行われているのです。
PART2:雇用を守る6つの方策
日本電産会長永森重信氏は「雇用の維持こそ社会への貢献」といいます。実際にリーマンショック時も社員の給料5%、役員報酬50%、自身の報酬は100%カットし、雇用を守りました。さらにカットした社員の給料は業績が回復した際に1%の金利を上乗せし、臨時ボーナスとして還元されました。
ただしグローバル化が進む中で「雇用を守る」といってもやり方は変化しています。実際の企業例を見ながら雇用を守る6つの方策を見てみましょう。
その①100%の賃金補償(日本ゼネラルフード)
お弁当や給食を提供している日本ゼネラルフード。
新型コロナの影響で学校が休みとなり、3月に約450人のパート従業員の仕事が消滅しました。しかし同社はいざというときにためてあった内部留保を活用し、3月分の給与として、過去3か月分の平均賃金の100%を補償しました。
また正社員の給与についても、年初に前期の考課を元にボーナス含めた年間給与を決めています。今回のコロナウイルスのような外的要因での業績悪化があっても、その年の給与は補償されています。従業員の雇用の安心が、高品質なサービスの維持に必要不可欠だと理解し、手厚く雇用を守っています。
その②働きがいを与え、雇用を維持する(ライオン)
給与と並び、雇用維持に必要な要素が「働きがい」です。社員に愛想をつかれてしまわないよう、危機感を持って取り組んでいるのが日用品大手のライオンです。
同社はコロナ対策で在宅勤務を徹底し、対象者の約95%が実施しています。また経理など出社しなくてはならない社員に対し、混雑する普段の通勤経路を迂回した際の実費分を負担したり、社員食堂を使えない分昼食手当を支給したりしています。
「愛と精神の実践」という社是を掲げるライオンは、「社員に優しい会社」として有名です。働く社員を大切にし、その会社への愛社精神を育み、働きがいを与えることで、雇用を守ることができるでしょう。
その③「副業」という選択(アソブロック)
社員全員が副業を行うことをルールとしている企業の採用支援業のアソブロック。
15人ほどの社員が3月末にミーティングを行いました。新型コロナウイルスの影響で、同社が手掛ける企業研修事業がすべて中止になっており、対応をどうすべきか話し合いました。
会社の減収にも拘わらず、会社が継続できる見込みが立ったのは、副業がセーフティネットの機能を果たしたことです。副業先の業績が問題ない社員が、仕事をほかの人に譲ることや、さらに会社の業績に応じ減給を申し出る人が出るなど、有機的に組織内で調整されました。その結果、アソブロックの社員全員が生活の維持に必要な収入を確保できています。
またスペインではコロナショックをうけてベーシックインカム制度が導入されます。またドイツではワークシェアリングという、有事の際に時短勤務を行い仕事を融通しあう制度もあります。雇用を守るという意味で、ワークシェアリングや副業による人材の流動性を高めることは機能として重要なことかもしれません。
その④自律的に動く社員作り(ヤッホーブルーイング)
クラフトビール「よなよなエール」で知られるヤッホーブルーイング。外出自粛の影響を受け、ビアレストラン8店舗は一部を除き営業を休止し、地元・軽井沢でのビール販売も低迷しました。
そんな危機への対応は社員主導で始まりました。在庫となった地域限定ビールや食材をインターネットで販売しようといったアイディアが続々と社内から集まりました。ヤッホーブルーイングは一般的な企業のような階層型組織構造にはなっておらず、1チーム3~16人の小集団に分かれてフラットに運営されています。そのチームが自主的に動くためにチームビルディングの研修を取り入れており、その成果が今回の自主的な危機対応につながりました。
在宅勤務にあっても一人ひとりがなにができるかを考えるチームビルディングの素養によって、緊急事態においても雇用に影響をうけない強い企業が作られています。
その⑤厳しいときこそ「人材投資」(エーワン精密)
工作機械関連の部品を手掛けるエーワン精密。
コロナショックで内定取り消しなどが起きる中予定通り採用を行いました。その思惑は、不況になったことで買い手市場に変化した結果、中小企業においては優秀な人材を確保できるチャンスであるとみています。さらに不況時は時間に余裕があるため、人材をじっくり育成しやすい利点もあります。
売上高21億円の会社ながら、利益剰余金は約84億円あり、危機をチャンスに変える準備を行ってきた同社。事前の準備を行うことで、アフターコロナでの回復の速さが異なるでしょう。
その⑥「実力主義」で痛みを分かち合う(日本レーザー)
最後に専門商社の日本レーザーです。
「雇用を守る」ということは社員を甘やかすことではありません。日本レーザーは日本型雇用の終身雇用を守りつつ、定期昇給のない実力主義を導入しています。
会社の利益と社員のモチベーション向上を両立するため、事業ごとに粗利の3%を担当したチームで分け合うことができます。つまり会社の粗利が下がればその分取り分も減ります。その逆で危機を乗り切り、粗利が改善した後にはその分バックが大きくなることをわかっているからこそ、雇用の維持につながっているのです。
PART3:雇用を守るためレジリエンスを強化せよ
雇用の守り方は経営者の哲学によって様々です。
例えば伊那食品工業最高顧問の塚越寛氏。1958年の創業以来寒天製造一筋で48期連続増収増益という偉業を成し遂げました。その経営哲学は「年輪経営」という独自のもので、ゆっくりと、着実に成長を続けることを大切にしています。その哲学にのっとりいままでリストラを一度もしたことがありません。企業には終わりがないため、成長を急ぐ必要はなく、手元資金を十分にもってゆっくり成長するからこと危機に強い企業を作り上げました。
一方で寺田倉庫の前社長である中野善壽氏。1000億円あった寺田倉庫の倉庫事業を売却し、1/10まで規模を縮小した彼は、「幸せにできないなら雇用を守る必要はない」と言い切ります。雇用の維持の目的は従業員を幸せにするため、無理に雇用を抱え込むことによって幸せにできないならば、無理に雇用を維持する必要はないと考えています。
両者ともに社員の幸せを目的にしていることは共通ですが、取るアプローチは正反対です。大事なことは危機に直面しても生き延びられるように組織のレジリエンス(回復力)を高めることです。
そのレジリエンスを高める考え方として、ブリコラージュというものがあります。文化人類学者のレヴィ=ストロースが提唱した概念で、有り合わせの材料や道具の寄せ集めで対処するという考えです。現在事業で使われているエンジニアリング(事前に定めた目標にむけて計画的に行動すること)の対概念ともいえるでしょう。
ブリコラージュのカギは3つあるとされています。
- 組織のメンバーが従来の役割を柔軟に変えられること
- 仕事のプロセスを俊敏に変更できること
- 作業の順番を即座に入れ替えられること
計画主義的なエンジニアリングが通用しなくなった際に、開き直って今できることに注力するブリコラージュの発想は、危機管理においては重要な考え方ではないでしょうか。働き手にとっての幸せを考え、ブリコラージュの発想で使える制度や技術を使い、レジリエンスの高い組織を創り上げることこそ、アフターコロナの世界を生き抜く近道となるでしょう。
私の感想
まずPART1で具体的なIMFなどの数値情報を知ることで、コロナショックがどれほど世界的な出来事か把握することができました。リーマンショックのころは私は高校生で、いまいち世の中が不況なのかよくわかりませんでした。そのため社会人になって初めての不況に直面しようとしています。そんな中で、過去の類似状況から多少の傾向を学ぶことはできると思うので、これからリーマンショック時の世界の環境変化、株価の動き、世界の覇権の移ろいなどを自分なりの仮説を立てて、準備したいと思います。
また、雇用を守る方法においては、スペインやドイツでは国をあげて大胆な政策を行っていることが衝撃でした。とくにベーシックインカムは日本でもちらほらと言われてはいますが、導入まではほど遠いのが現実だったため、実際に導入を検討している国があることが意外でした。
ドイツのワークシェアリングはリーマンショック時も有効な制度だったようです。制度の中身は、削減された給与の最大67%を政府が時短勤務手当で補填し、さらに雇用者の社会保障費も全額肩代わりする制度です。通常は従業員の30%が勤務時間を10%以上削減した場合に適用が可能ですが、今回は従業員の10%まで条件を緩和しています。今まで日本型企業で当たり前のように首のリスクに晒されなかった私ですが、改めて雇用を守ることの社会的責任と影響の大きさを考えることができました。その裏返しとして日本の政策がどうなっているかも確認したいと思います。(現時点で私が知っているのは全国民への10万円の補助金と日本政策金融公庫などからの企業向けの実質無利子・無担保融資、200万円の給付金などだけです)
PART3では伊那食品工業の塚越さんの言葉「企業には終わりがない」に痺れました。自分は今まで自分の人生や自分の会社勤めの時間など有限であることばかりに意識しており、企業が無限に発展していくことに想いを馳せたことはありませんでした。その意識の深さが事業家と労働者の違いであるとハッとしました。また自分もなにか終わりのないことに没頭できれば、筋の通った良い人生が送れるのではないかと考えるきっかけになりました。
最後にブリコラージュの発想についても学びが多かったです。今回はコロナの影響に対する企業としての姿勢を雑誌では書かれていますが、規模を小さくして私個人としても、日常の危機に対し、ブリコラージュの発想で対応することができればと思いました。人生においてエンジニアリングのように計画通りにいくこと、前もって危機に備えておくことが美徳とされているように思っていましたが、その皮をむくことができる良質な記事だったと感じます。
最後に:日経ビジネス掲載 今週の本紹介
日経ビジネスで紹介されている話題の本を私の備忘録として載せます。
気になる本があれば、感想をブログにアップする予定です!
皆さんも気になる本がありましたら、ぜひコメント欄で教えてください。