今回はフィリップ・K・ディックさん著『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』の感想をまとめます。ネタバレを含む内容になっておりますのでご注意ください。
■要旨:地球が汚染され、人々は火星に移住を進めている中、主人公はアンドロイドハンターとして地球に暮らしていた。そこに火星で奴隷のように使用されていたアンドロイドが地球に脱走しており、始末してほしいとの依頼があった。人間に特有の感情の動きをテストしながら8体のアンドロイドを処理していく中で、主人公はアンドロイドにも感情移入をし始める。人間の本質とは何かを見つめなおせる稀代のSF小説。
■感想:手放しで傑作でした。
なによりも特筆すべきは1968年に書かれたこの小説が、AI等が進みだした現代で読んでもなお新しいと感じられることです。それほどまでにリアリティがあり、現実とのつじつまが合わない部分がほとんどないものでした。
設定自体が若干複雑で、
・ほとんどの人は火星に移動し、地球はごく一部の人間しか住んでいない
・生物がほぼ住めない環境のため、生物は保護されるべき対象となっている
(そのため生き物を飼っていることがステータスとなっている)
・マーサー教という宗教が普及しており、教祖マーサーと肉体的共感覚が得られる装置がある
という内容でした。
前半はその特異な設定に頭が慣れるまでは大変でしたが、中盤から後半にかけては、その緻密な設定と暗喩じみた世界観にどっぷりはまることができました。
この本は人間とは何かを考えさせてくれる本ですが、それ以外のマーサー教はなにを意味するのか、最後の妻とのシーンはどういった意図なのかと考えさせられました。自分でも答えを明確にできていないですが、68年の著者と本を通じて人間の本質を対話できたことは素晴らしい体験でした。
皆さんもぜひ読んでみてください。