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今回は2020年1月13日発行分の日経ビジネス『逆風に芽吹く世界のビジネスモデル』の感想をまとめます。
当記事を読むことで下記3点が分かります。
- 社会のひずみによるビジネス
- 産業のひずみによるビジネス
- 消費者のひずみによるビジネス
皆さんに知ってもらいたい内容があまりにも多かったため、今日と明日の2分割でお伝えさせていただきます。笑
ではご覧ください!
目次
Prologue:投資マネーの向かう先
ベンチャー投資マネーは傾向としては近年右肩上がりで増え続けてきました。それにより「ユニコーン」と呼ばれる企業価値10億ドル(約1100億円)ほどの未上場企業の数が20年1月時点で430社あります。それは1年半前の240社と比べて、1.8倍に数が増えています。
しかしシェアオフィス事業を展開していたWeWorkショックにより、風向きは変わりました。ソフトバンクビジョンファンドも大幅な打撃を受けるなどし、ベンチャー投資を絞る状況になってきています。
そんな中資金を集めている分野が「ディープテック」と呼ばれる分野の企業です。
ディープテックとはAIやIoTなどのテクノロジーを用いて社会の「ひずみ」を解消する企業活動のことです。ベンチャー投資において、これからは下記5点が重視されます。
- 成長力
- R&D投資
- 利益率
- 生産性
- デジタル投資
では社会にはびこる「ひずみ」とは一体どんな内容があるのでしょうか。次章以降で見てみましょう。
Part1:社会におけるひずみ
社会におけるひずみ=大きな社会問題を解決するスタートアップ企業の取り組みを見てみましょう。
①ごみ問題(米テラサイクル)
世界のごみ問題に対し、リサイクルという愚直で正攻法な答えで解決を推し進める「テラサイクル」。同社のビジョンは「『捨てる』という概念を捨てよう」です。
一般的なベンチャーは短期的に時価総額を大きくし、ユニコーンとしてIPOを目指すことが成功の方程式でした。しかし同社は短期的な利益(5年以内の上場)を追求する投資家からの資本は受けておらず、ビジョンに共感してくれる長期保有志向の高い投資から資金を集めています。
同社の活動は使用済みのおむつや歯ブラシなど、使い捨てられてきた製品を再利用する仕組みの構築がその一つです。そしてもう一つが回収にコストがかかり再利用が難しいとされていた、海洋プラスチックごみなどを活用した製品の開発支援です。
工場を持たない同社はアイディア一本で勝負しています。それでもなお会社が存続している理由は、テラサイクルの提案内容はマーケティングとして効果を発揮するからです。おむつの回収においては、売り場に使用済みのおむつの回収ボックスを設置。それにより広い売り場を確保してもらうこととブランドイメージの向上の2つの効果がもたらされました。
プラスチック製のストローがウミガメに刺さった動画がSNSで拡散し、環境問題解決への追い風が吹いています。日本においてもP&Gジャパンがテラサイクルと手を組み、海洋プラごみの再生原料を容器に25%混ぜた台所用洗剤の発売を行いました。対馬に押し寄せる海洋ごみは年間200~300トン。日本のみならず世界中でごみ問題の解決が急務となっています。
②食糧問題(米ビヨンド・ミート/米インディゴアグ)
現在2050年には世界の人口は90億人に達し、タンパク質の需要は現在の約2倍に増えるとされています。そこで食糧問題を解決する企業として2つ紹介します。
1社目は大豆やえんどう豆などから作った「植物肉」の企業ビヨンド・ミートです。植物性タンパク質は家畜などの動物性たんぱく質の生産と比べると環境負荷が圧倒的に低いことが特徴です。また技術革新により本物の肉に極めて近い味が再現できるようになり、市場が拡大しました。
2社目は植物の育ちを良くする「スーパー微生物」を閉じ込めた特殊材料を作って種にコーティングし、販売しているインディゴアグです。現在トウモロコシ、コメ、大豆、小麦などの種を販売しており、トウモロコシなら約6%、大豆なら約8%の収穫量拡大を見込めます。植物の根には無数の微生物が生息しており、植物の栄養素や水の吸収を助けています。作物に合うスーパー微生物を特定することで、安全かつ高品質の作物を効率的に収穫できると考えました。
さらにインディゴアグは収穫量拡大以外の革命も起こしています。それは農業の価格きめのプロセスに対する改革です。
現状の穀物取引では、値段は単に受給バランスで決まり品質は問われません。そのため、高品質の作物を育てるモチベーションが沸きづらい環境でした。そこで同社はオークションサイトを立ち上げ、そこで買い手から値段が提示される仕組みを作りました。そしてそれはただのオークションだけではなく、インディゴ自身が出品された作物のサンプルを専門機関に提出して品質を細かくチェックし、土壌の状況や水の管理、農薬使用の有無など、育成過程の情報を掲載し、その品質で買い手が値段を決める方式にしました。
2019年6月にはCO2排出量取引ができる仕組みの運営も開始し、現在の環境保護の潮流にしっかりと乗っています。
③生活習慣病(印ヘルシアン)
27年ごろに世界最大の人口をかかえることになると予測されているインド。経済発展に伴い、栄養失調は改善されましたが、代わりに生活習慣病に悩む人が増加してきました。19年度のインドの糖尿病患者は7700万人と、人口の6割を占めています。
それを解決するため、自宅で容易に血液検査を受けられるサービスを始めたのが、ヘルシアンです。スマホのアプリで予約をすれば、スタッフが最速90分で自宅を訪れて採血します。その血液はインド各地のラボに運ばれ、24時間以内に結果を確認できます。さらにその結果は医師に共有され、生活習慣を改善するための助言を得られます。現在の利用者は80万人を突破、さらに6割はリピーターになっています。従来の血液検査は、自ら検査センターにいく必要があり、その後の医者のフォローもありませんでした。さらにヘルシアンは中間業者を廃したことで価格も4割ほど抑えることができました。
④難病治療(中ハイタイド)
脂肪肝が原因となって発症する、現発性硬化性胆管炎。その治療薬の開発で先頭を走るのが中国のハイタイド(君聖泰生物技術)です。
これまで中国は創薬の面では後進国でした。しかし同社の実力は折り紙付きです。アメリカの食品医薬品局(FDA)に、完治が難しい疾患に効果が期待できそうな新薬について優先的に審査する「ファーストトラック」と呼ぶ制度の対象になっています。現在はフェーズ2と呼ばれる臨床実験を行っています。
⑤介護人材不足(泰ヘルス・アット・ホーム)
高齢化が世界共通の悩みとなっている中、新興国の多くで介護制度の整備が遅れています。その課題を解決しようとしているのがタイのヘルス・アット・ホームです。
同社はタイで初となるプロの介護者(ケアプロ)育成に乗り出しました。合格率7%という厳しい面接をパスした候補者に100時間ものトレーニングを施しています。そのうえで300人ほどいるケアプロと介護希望者をマッチングする仕組みを構築。LINEを使い質問に答えると、独自のアルゴリズムで適したケアプロを自動で選びます。そして午前10時までにアプリで依頼すれば、午後6時には自宅にケアプロを派遣できます。
⑥零細企業の貧困(印ステラップス)
インドの酪農家の貧困課題をIoTを用いて解決したのがステラップスです。
同社は酪農の現場から乳製品加工まで、一連のプロセスをIoTで刷新しました。まず乳牛に取り付ける独自デバイスを開発。1頭1頭の生体データを記録し、体温や運動量などから最適な繁殖のタイミングや病気の予兆を飛躍的に向上させました。さらに生産された生乳の脂肪分や糖分を測定し、自動で値付けができるシステムを導入。それにより高品質な生乳を作れば収入を増やせるようになりました。さらに蓄積されたデータをもとに酪農家自身の経営能力や乳牛の資産価値が可視化され、銀行や保険のサービスを受けられるようになりました。
Part2:産業のひずみ
産業を支える物流と金融で変革が起きようとしています。その内容を見てみましょう。
⑦非効率な物流(尼ロジスリィ/米コンボイ/中嬴徹科技)
インドネシアで課題となっている渋滞。そしてその渋滞の中立ち往生しているトラックを皆さんも見たことがあると思います。そのひずみを解消しようとしているのが、東南アジアの配車サービス、グラブ出身のローリン・ジョトセティアディ氏が率いるロジスリィです。
同社のサービスは荷主とトラックのマッチングです。荷主が荷物の量や目的地、日時などを同社サイトに入力。するとロジスリィが工場や倉庫での待ち時間、荷物の積み込みに要する時間、道路状況などを考慮したうえで、最適なトラックを手配します。
物流版の配車サービスは先進国でも広がっています。「物流のウーバー」と呼ばれているコンボイです。アマゾンの物流を担当していたダン・ルイス氏が15年に対上げました。スマートフォンのアプリに条件を掲載すると、近くのトラックのドライバーが入札、荷主が承認すれば取引成立となります。
マッチングアプリのほかにも解決策としてトラックの自動運転があります。中国で自動運転による物流の効率化を図ろうとしているスタートアップが嬴政科技(インセプティオ・テクノロジー)です。同社はテンセントで自動運転分野への投資などを管轄していた馬氏が自動車・物流関係者とともに立ち上げました。遠距離トラックは基本的にルートが決まっていることが多いため、乗用車よりも3~4年ほど早く実現できる見込みがあります。
⑧金融の不信感(米レモネード)
保険手続きの煩雑さを解消しようとしているのが米レモネードだ。従来の保険は保険金の受取までに複雑で面倒な手続きを行う必要がありました。また高い保険を契約させようと、保険内容についてもわかりづらいものが多くあります。
レモネードのサービスでは同社のアプリを入れ、質問に答えるだけで5分以内に条件提示がされ、保険に加入できます。補償を請求する際もアプリの質問に答えるのみです。レモネードは保険料の一部を手数料としてもらうだけで残りは支払保険金用とします。さらにそれでも余ったお金に対しては、保険加入者が選択した慈善団体へ寄付することとなっています。
⑨現場の労働負荷(仏エクストリー)
3D印刷技術を用いて産業のゆがみを解決するのが、エクストリーです。同社のビジョンは「建設業界の労働負荷と環境負荷を減らしたい」ということです。重たい建設資材を運ぶのは重労働なうえに、端材が大量のごみとなって環境負荷を高めています。3Dプリンターは巨大な建造物を資源を無駄にすることなく作り出せるため、課題の解消の鍵となる技術です。また同社は設計と製造の両方の技術を3D印刷で持っているため、各国の建設会社の3D印刷のプラットフォーマーを目指します。
⑩希少すぎる高級酒(米エンドレス・ウエスト)
ビンテージワインの高さに疑問を持ったワイン愛好家のマルドン・チュア氏。同氏が連続起業家のアレック・リー氏と人工酒を製造するエンドレス・ウエストを設立しました。ワイン男分子構造を分析し、高級ワインをブドウを使わず人工的に合成し、再現する技術を開発しました。しかしブドウを原料にしないものはワインと認められないため、その技術を流用し、ウイスキーの製造に活かしました。
ウイスキーの製造は蒸留や熟成に時間がかかります。その結果需要の変化に即座に対応できず、原酒不足などの問題が起きます。しかし同社の技術によって、およそ1日でウイスキーを作れるようになりました。
⑪持続可能な養殖業(印エルバカ・テクノロジーズ)
世界で最も多く養殖されている水産物、エビ。その養殖業は非効率な給餌により環境悪化を招き、持続可能性が脅かされています。それをAIの力で解決したのが、エルバカ・テクノロジーズです。同社は養殖池の水質をセンサーで収集、解析することで最適なタイミングで最適な量の餌を自動投入するシステムを開発しました。そして水質を管理することにより、病気の蔓延や環境の悪化を防ぐことができます。
また月々のサービス利用料は100ドルと安くはありませんが、導入すれば生産性を2割程度向上できる見込みです。
⑫時代遅れの小売(尼ケダイ・サユール)
新興国では今でも生鮮食品や生活必需品などを2輪車に満載し、市中を売り歩く行商人が人々の生活をっ支えています。しかしその小売の生活は大変で、深夜に起きて市場で商品を仕入れ、朝10時頃まで売り歩きます。また一般向けの市場で購入したものであるため、粗利も小さいです。
この解決を図ったのがケダイ・サユールです。4000人の行商人を束ね、一括で仕入れを行い行商人に届ける仕組みを作りました。それにより行商人は深夜に起きて仕入れに行く必要はなくなり、さらにマスメリットを活かしてコストも抑えることができました。
ここまでの感想
めちゃめちゃ読みごたえがあり、かつ個々の事例が面白かったため、かなりの文字数を擁してしまいました。。。笑
しかし内容はどれも目から鱗といいますか、応援したい事業内容ばかりで興味深く読むことができました。
昨今の企業ではSDGs(持続可能な開発目標)に沿った活動が重視されています。(SDGsとは国連サミットで採択された持続可能な発展のための17の社会的目標のことを指します)その中に水資源を大切にだったり、食糧問題だったり、貧困と飢餓だったりと今回社会のひずみとして語られる問題の多くがありました。その社会的問題の解決に直接取り組んでいる企業は理念もわかりやすく、共感も得やすいと感じます。そして今後の投資活動でもSDGsやCSR(企業の社会的責任)の面を評価して投資を行う人々が増えると予想されています。そのため、これからどんな企業においても社会の課題解決を目的として戦略や目標を語らなくてはならないだろうと思いました。優秀な指導者や社長の方はこのストーリー作成が巧みな人が多いです。自分もなぜこの行動、仕事を取るのか、その先の未来はどうなっているのかを上手に人に伝えられるよう、トレーニングに励みたいと思いました。
また、本書の内容とは直接かかわりは薄いのですが、本日インスタグラムの投稿で仕事の満足度には2つの要因があるという内容を見ました。それはアメリカのハーズバーグという臨床心理学者が唱えた「二要因理論」ですが、非常に納得性が高かったため紹介させてください。
- 動機付け要因・・・満足に関わる要因
- 衛星要因・・・不満足にかかわる要因
動機付け要因とは仕事そのものの意義や責任、承認などのことで、これらが感じられると満足度は上がるが、なくても仕事の不満足を引き起こすわけではありません。
衛星要因とは給与、作業条件、職場環境などのことで、これらが悪いと不満足になるが満たしたからといって満足感が高まることではないものです。
自分のモヤモヤとして、1の動機付け要因が落とし込めていないなと思い、納得しました。会社に不満はないけど、満足や充実感の仕事ができているかというと怪しいなと持っていたため、1の動機付け要因を解決することでモヤモヤが解消できることがわかりました。
本記事の特集に出てきた企業は逆にいえば1は満たせているのだろうと思ったため、「二要因理論」を紹介させていただきました。
明日は本内容の続きPart3とEpilogueをまとめます。
本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。