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今回は前田昌孝さん著『株式市場の本当の話』の感想をまとめます。日本経済新聞編集委員の著者の知識を1冊にまとめた本です。約40年の取材人生で培ってきた含蓄は一見に値します。ぜひご覧ください。
目次:
本の概要
本書は著者の前田さんがむすびに書いてある通り、株式市場における諸問題についての著者の意見をオムニバス的にまとめた本となっています。構成は以下7章立てです。
- バフェット流は正解か
- 投資信託は課題が山積
- 公的年金の危うい運用
- 想定リターンはマイナス2%
- 投資の目的の再点検を
- 日本の出口「破壊と創造」
- 市場インフラに関する考察
現在の株式市場における問題点を批判的な視点でとらえているため、ネガティブな意見が多い印象です。しかし、現在の金融緩和の中でのある種バブル的な株価の上昇に対し、冷静さを取り戻させてくれる役割がある本だと思います。
続いて本書の中でも特に印象に残った2点を説明します。
バフェットの実績について
「オハマの賢人」と言われたウォーレン・バフェット氏。彼の突出した株式取引の業績により、投資家の多くからバフェット氏が保有している会社の株は注目をひいてきました。しかし著者はバフェット氏の実績について、危うい点を指摘します。
まず1点目はベンチマークとなるSP500の年間リターンに対する勝率が下がっている点です。2000年から2010年までは6勝4敗で、2010年から2020年までは5勝5敗になりました。また勝利した際の差についても小さくなっています。
また、2点目は投資結果のアップルの利益に対する依存度です。航空株やIBM株の取得は失敗に終わりました。もちろん世界初の時価総額1兆ドルを超えたアップルの株を保有している先見の明は著者も認めています。しかしながら、「吸い殻以下」と称していた日本株の購入など、過去から比べ株式の取得に違和感が増えてきているため、考えなしにバフェット銘柄を追従することは危険であるとしています。
尚、日本株に食指を伸ばした理由としては、アメリカ株の割高感が考えられます。米国株全体の時価総額を米国の名目GDPで割った数値で割高かを計るバフェット指数と呼ばれる指数があります。2021年1月末時点でそれは180%(100%が基準)となっており、未曽有の割高状態であることを指し示していました。日本株はその指数からみるとアメリカほど割高ではなかったため、日本株の「吸い殻」銘柄を漁ったと著者は考えています。
空売りの市場意義
空売りとは実際に株式を売るわけではなく、株式を売る権利を行使することをいいます。いわゆるデリバティブの一種です。
空売りは元々リスクヘッジの意味合いで行われていましたが、空売りによって機関投資家に大きなメリットがありました。それは株式調達の流動性の高さです。空売りが存在しなければ、欲しいときに株を調達することが困難になります。しかしながら空売りという制度があることによって売り気配と買い気配が提示できています。
空売りにより株価が長期的な下げ要因になるという指摘は間違っていると著者はいいます。電気自動車メーカーのテスラは最も空売りを浴びている企業であるにも関わらず、力強い株価の伸びを見せています。そのため、空売りの意義を理解せずにデメリットをあげつらうことは非常に無知なことでしょう。
感想
株式市場におけるさまざまなトピックスについて、筆者の考えが聞けたことはよかったと思います。またインデックス投資よりも良い実績を出せている投資家は少ないことも例示されていました。そのため『ウォール街のランダムウォーカー』でも論証されている通り、長期的なインデックス投資の価値はまだ廃れていないことがわかりました。なかなか理論通りの積み立て投資ができていませんが、それを実践する心理的後押しとなる1冊でした。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
また次回のブログでお会いしましょう。